「重ね衿」の意味と楽しみ方」
お正月などに(お正月じゃなくても)お家でカルタとか福笑いなどをなさる方ってどれくらいいらっしゃるんでしょうね。羽根つき、凧揚げ、コマ回しも、かつてお正月の風物詩でしたけれども、あまり見かけなくなりました。そりゃそうですよね。スマホゲームとかネットとか、楽しいモノがたくさんありますもんね。なぜかけん玉だけは、世界中で流行っているとか。プロスキーヤーの方がたまたま日本に来日したときに見かけてはまったのが世界的流行の始まりだとか。
さて、本題。けん玉ではなくて、百人一首です。先日、ひょんなことから久しぶりにやったんです。子どものころに百首全部覚えたんですけれども、悲しいほど忘れていましたね。好きだった歌だけはなんとなく覚えていましたが、百首覚えたはずなのに「そんなのあったっけ?」なんて思う歌もあって、ビックリです。昔覚えたことは忘れない。最近覚えたことが分からなくなるのだと聞いた事がありますが、昔覚えたことも忘れるものですね(キッパリ)。
『ちはやふる』に始まった百人一首ブーム。『うた恋。』も続いて、競技カルタを始めた方も多いようですし、この作品の影響で袴をお召しになりたい方も増えたようですよ。パーンとけたたましい音と共に、勢いよく札の飛ぶシーンは実に印象的で、どうも平安時代の雅やかなお遊びというよりは、もはや格闘技という印象ですね。
その札なんですが、まぁ、一対一でガチで闘う競技カルタの他にもいくつか遊び方はあるわけですけれども、総じて文字だけの札を床に並べ、カラーの美しい札を読み手が読みますよね。なんかもったいないような気がするのは私だけでしょうか。読む人たった一人だけが、歌の作者の様子、とりわけ美しいお姫様の札を見ることができるんですよね〜〜〜。とっても不思議でもったいない。
そのお姫様……小野小町とか、清少納言とか、和泉式部とか……100のうち、21が女性の歌なんです。一億総活躍社会の現代は、50人くらい女性が参加していないとNGなのかもしれませんが、21入ってるって結構すごいことなんですよ〜。で、そのうち一人が持統天皇。春過ぎて〜ですね。そして内親王が一人。女房っていう宮中で働く人たち(キャリアウーマン)が17人。え? 計算が合わない? はい、残りの二人は「なんやらの母」です。
で、読み手しか見ることのできない札に、十二単を着てロングヘアーのいわゆる「姫スタイル」の方々が描かれていて、今のように遊び道具やゲームの少ない時代は、百人一首の札のお姫様たちは女性の憧れの的でした。平安時代を象徴する宮廷衣装は、即位の礼などで皇后陛下がお召しになったあのお召し物ですからイメージしやすいかもしれませんね。
着装の上から唐衣(からぎぬ)、裳(も)、表着(おもてぎ)、打衣(うちぎぬ)、重袿(かさねうちぎ)、単、小袖、袴などで成り立っていて、手には檜扇(ひおうぎ)と帖紙(たとうがみ)を持っています。この下着だった小袖が後に現代の着物へと発展しますが、それはまた別の機会に♪
そもそも、なぜ衿を重ねる?
実際に、十二単(じゅうにひとえ)と呼ばれるようになるのは平安時代ではなくて、鎌倉時代なんですが、袿(うちぎ)を中心として重ね着をしてその色と色の調和美は、襲の色目(かさねのいろめ)と呼ばれました。鎌倉時代には襲の色が五枚と定められたので五衣(いつつぎぬ)という言葉が生まれました。平安時代は、重ねる数に特にキマリはなくて、十二単ですが、十二枚限定というわけでもなく、五枚程度から多いときは二十枚も重ねたりしたのだとか。色の襲の美しさと、豪華さを競い合い、襲の色に意味を持たせる……。
その意味がまた教養だったり、貴族の間のお約束ごとだったりしたのでしょう。庶民の衣装は徐々に進化、変化をしていきますが(今も変化と進化をしています)、宮中の正装は未だに平安時代を踏襲していますし、百人一首以外で親しみがあるのは三月の節句に飾られるお内裏様でしょうか。重ね衿はそうした、色を重ね、豪華さや美しさを表現するために生まれたもので、重ね着をしなくなった今も、衿に色を重ねておめでたい席を彩ります。
今は、ご自分に似合う色、お顔が晴れやかになる色、着物や帯などに合う色を重ねますが、襲の色目として楽しむのならば、本や着物手帳やインターネットで少し検索したり調べたりしていただくと、季節感や、気分を色で表してみるなんていう、ちょっと高度な? いや高貴な香りのする色の重ね方や楽しみ方ができそう。
例えば桜萌黄は、萌葱色に濃二藍を重ねます。季節は春……緑色と濃い紫色を重ねて「桜萌黄」だなんて、なかなか気づいてくださる方はいないような気がします。薄紫と薄い緑を合わせて「葵」とかね。なんだか誰にも気づいていただけないような気が……ぜったいぜったいしますよね。でも、なんか意味のある高貴な組み合わせをして、自己満足でもちょっと楽しそうです。
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